みだらなキミと、密室で。

「詩音さん、たしか、音大ですよね?」

「そーだよー」

詩音さんはニコニコ顔でそう答える。

懐かしいな。

小さい頃はよく、詩音さんのピアノの発表会に私たち家族も見に行った記憶がある。

すっごく上手で。

ピアノのレッスンでなかなか遥琉と遊べなかった詩音さんの代わりといっちゃなんだけど、私は、遥琉のお姉ちゃんとして、彼の遊び相手をして面倒を見てきたつもりだ。

あの日、遥琉が公園に来なかった日までは。

それにしても、昔からスラッとしてて十分カッコ良かった詩音さんだけれど、

大学生になった彼はもっと大人びていて色気があって、正直、ドキッとしてしまった。

大学生ってこんなにも違うんだな。

「にーちゃん彼女いるから、無駄だぞ」

洗面所で手を洗っていると、背後から低い声がする。

勢いよく振り返れば、不服そうな顔をした遥琉が立っていた。

「はー?何がー?」

「いやなんかちょっとときめいた顔してたから」

「別にしてないですけど?まぁ、遥琉より断然、詩音さんの方が素敵だけどね!」

そう言い放ってそのまま洗面所を出る。
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