俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
「板谷社長……!」


驚いて身じろぎすると、長い人差し指を私の唇に押し当てた。

軽く触れる骨ばった指に、頬に熱がこもっていく。


「愁」

「え?」

突然言われた名に瞬きをする。


「婚約者なんだから、名前で呼ぶように」

「いえ、でも……」

「本気だと言わなかったか?」

私の躊躇いを見透かしたかのように、問いかけられる。


「沙和は俺のたったひとりの婚約者だ」


有無を言わせない力強い目で見つめられて言葉を失う。


「沙和」


甘い声でもう一度名前が呼ばれる。

本当におかしい。

こんな風に、こんなにも大切そうに誰かに名前を呼ばれた経験はない。


……どういうつもりなの?

……本当に私を望んでくれているの?


なにもかもがわからなくて困惑する。


「俺の名前を呼んで」


懇願のような言い方に抗えない。

真っ直ぐな眼差しから目が逸らせない。


頭がぼうっとするのは暑さのせい?


微かに開いた唇がかさつく。

必死に唇を動かして、小さな声を絞り出す。


「し、愁、さん……?」

「呼び捨てがいいんだが……今はそれで我慢する」

そう言って甘やかに口角を上げる。

私のうなじにかかる後れ毛に長い指でそっと触れてくる。

今日は暑いので頭の高い位置で髪をまとめ上げていた。

触れられた箇所が火傷をしたみたいに熱くて、思わずうつむく。

どうしてこの人にはいつも情けない態度しか取れないのだろう。

異性とふたりきりで外出なんて、仕事も含めたら日常茶飯事なのに。
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