俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
向けられる目はとても穏やかだ。

なのに心の中はまったくすっきりしない。


目の前のふたりの関係に、これ以上口を出すなと緩やかに線引きをされた気になった。

声にならない声が喉の奥でかき消されていく。



この人の心の目に映るのは誰なの? 彼女を忘れるために私をここに連れて来たの? そのためにリハビリしよう、なんて言ったの? 将来を視野に入れて、とか婚約者だとか、これまでの甘い言葉や仕草を本当に贈りたい人は……辺見さんだったの?


……私への気持ちが『本気』だと言ったのは嘘だったの?


心の奥がざわついて、必死で笑みを貼りつけている頬の筋肉が痛い。

ここに来なければよかった。

リハビリなんて了承しなければよかった。


〝婚約者〟なんて言葉を、冗談だと思いながらもどこか期待していた、信じようとしていた愚かな自分。

こんなにもやるせなくて切ない想いは知らない。

なんでこの人のことばかり考えてしまうのかわからない。


彼が口にする私への『本気』なんて信じていなかったはずなのに。

冗談だと割り切っていたはずなのに。


目頭が熱くなる。

胸の奥が張り裂けそうに痛い。


こんなところで泣いてはいけない。

そんな恥は晒せない。

迷惑をかけてしまう。

自制心を総動員させて愁さんに向き直る。


……気持ちを隠すなんて慣れているでしょう?


自分に必死で言い聞かせる。


「……少し人に酔ったみたいなので、お手洗いに行ってきます」

腰に回る大きな手をやんわりと外して、歩きだす。

どうしてもひとりになりたかった。

なにか言いたげな、心配そうな目は見ないフリをする。

そんな視線を向けないでほしい。
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