さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜

茂樹は幼い頃、父親を病気で亡くしている。

母親はその後、茂樹の父親の親戚だったという人と、周囲の反対を押し切って再婚した。

反対されたのは、その再婚相手が初婚で、かなり歳下だったからだそうだ。

そして母親と養父との間に妹が生まれ、新しい家族はうまく行くかに思われた。


ところが——

養父となったその(ひと)が、次第に実子ではない茂樹に、暴力を振るうようになってしまったのだ。

成長するにつれて、茂樹が亡き父親にどんどん似ていったためらしい。

顔だけでなく、背格好も、声も……

そして——その優秀さも。


そんなとき、母親がたまたま同窓会でTOMITAホールディングスの富多社長と再会した。
二人は中学時代の同級生だった。

すると、事情を知った社長がいたく同情して、茂樹たち家族三人を自宅に連れ帰った。

社長の妻と息子(今のTOMITAホールディングス副社長)も温かく受け入れてくれたそうだ。


それからは、茂樹の母親がハウスキーパーとして富多家で働くこととなった。

さらに、社長が速攻で弁護士を立てて、母親と養父の離婚を成立させたという。

当時、茂樹は中学生、妹のわかばちゃんはまだ三歳だったそうだ。


以来、茂樹の家族は富多家によって経済的に支えられてきた。

子ども二人は学費までも富多家の世話になり、おかげでわかばちゃんは大学、茂樹は法科大学院まで、いっさいの奨学金を受けることなく進むことができた。


だから、茂樹は法科大学院を卒業して司法試験に合格すると、迷わずTOMITAホールディングスに入社した。

富多家では、まるで「執事」のような役割さえ担っているようだ。

公私の区別なく、富多家に「奉仕」する毎日だ。

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