さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
「……おとうさんの方から、離婚を切り出されてたんだ」
——意外だった。
てっきり、母の方から言い出したとばかり思っていた。
「あ、彼の名誉のために言っておくけれども、今の奥さんとはちゃんと離婚が成立してからだからね」
現在の父の妻である冬美さんは、母とは文字どおり犬猿の仲だった祖母が亡くなったあとにやってきたから知っている。
「確かに彼の方から切り出された離婚だったけれども、お義母さんとの同居生活にも辟易していた真っ最中だったからね。
娘であるあなたには悪いけれども『渡りに船』だと思ったわ。
だから、一ヨクトたりとも後悔なんてしてないわよ」
——やはり、おとうさんは「絶妙な」タイミングで、おかあさんに「引導を渡した」というわけか……
「だけど、今でも心残りなのは、そうね……
やっぱり光彩をお義母さんの手に渡してしまったことだわね」
——うん、ごめんね。
おかあさんが料理した「パンダのコロッケ」級が並ぶ食卓では、とても成長期を乗り越えられるだけの栄養素が担保できるとは思えなかったからさ。
「おかあさん……今日、ここに泊めてもらえる?」
——遅ればせながら、今からでも少しは「娘らしい」ことをしておこう。
「あら、めずらしい。もちろん、いいわよ。
……じゃあ、幸生に客室を整えてもらうわ」
母は『客室』と呼ぶが、他の部屋とはがらりと変わったテイストの、しかもいかにも妙齢の女性が好みそうなインテリアに囲まれたその一室は……
明らかに「娘のための部屋」であった。
「あのね、光彩。
これでも……あなたのお父さんには感謝しているのよ」
「わたしを……おかあさんの代わりに育ててくれたから?」
わたしの問いに対して、母は首を左右に振った。