さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
「……光彩」
名前を呼ばれて、父の方を振り返った。
「おとうさん、わたし……
茂樹のところへ行ってくるわ」
すると、父がめずらしく口角を上げた。
「そうか。おまえは……後悔のないようにな」
だが、その顔は苦笑しているようにしか見えなかった。
「じゃあ、行くね」
部屋を出るべく、わたしは一歩を踏み出した。
「おい、光彩」
なのにまた、父から呼び止められる。
「もおっ、なによっ?」
——まだ、なにかあるのっ?
これから急いで向かおうとしている矢先に出鼻を挫かれ、思わずイラっとした口調になってしまう。
「……おまえの母さんは、元気にやってるか?」
——へっ? なんで、今、その話?
わたしの頭の中が「?」で埋め尽くされる。
「先週会ったけど……元気にしてたわよ。
相変わらず、仕事を家まで持ち込んで忙しそうにしてたけどね」
「……そうか」
そしてわたしは、今度こそ父の書斎の外へと飛び出した。