さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜

あれから何回か引っ越ししたけれど、ずっと『家賃とか掛かる費用を折半』してくれることは続いていた。

今の住まいは、リビングから有栖川公園が一望できる瀟洒な低層マンションの2LDKだ。
(いくら同世代の人たちより稼いでいる方とはいえ、こんな立地の良いところに住めるのは、茂樹の「補助」があるおかげなんだけど……)

ところが、『おれの部屋』は一度も設けられることはなかった。

その代わり、わたしの寝室(ベッドルーム)には『星◯リゾートでも使ってるらしいぞ』と茂樹が独断で取り寄せたキングサイズのベッドがどーんと置かれた。

また、わたしのウォーキングクローゼットの片側半分が、いつの間か茂樹のスーツや普段着などで占められるようになった。
(なので、2LDKのうちの「2」は寝室と仕事関係の資料置き場(書斎)に充てられている)

彼が『臨機応変に』この部屋に来るのは、退勤後いったん富多の御屋敷に戻って「富多家の夕食」を終えたあとだ。

来ればいつもいきなり入浴し、クローゼットにあるスウェットに着替え、キングサイズのベッドで眠る。

そして明け方、いったん富多の御屋敷に戻ってから出勤するために、クローゼットのスーツに着替えてこの部屋を出て行くのだ。


このことは、おばさんには話しているらしく、
『あなたには中途半端な形になってごめんなさいね。わかばももう大学生だし、茂樹にはもう大丈夫だから、っていつも言ってるんだけど……』
と、申し訳なさそうに言われたことがある。

わかばちゃんだって、
『おにいちゃんは、いつまであたしのこと、子ども扱いする気なんだろ?
光彩さんをこんなに待たせて、もし逃げられでもしたらどうすんのよっ』
と、ぷうっと頬を膨らませて怒っている。

とっくに茂樹と別れていることは告げてあるのだが、
『あたしは光彩さん以外の(ひと)を「お義姉(ねえ)さん」とは、ぜえっったいに呼ばないからね!』
と言って、まともに聞いてくれない。

< 35 / 188 >

この作品をシェア

pagetop