さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
「……それでも、たとえ日本のものでなくても弁護士資格を持つあなたのことは『先生』って呼ばせて。日本では『慣例』なので」
彼のことを「先生」と呼ぶ代わりに、口調だけは崩して言った。
「やはり、日本ではそうなんですね。
僕はアメリカの生活の方が長くなってしまったので、失礼な言動になっていたらすいません。
正直言って、敬語にもあまり自信がなくて……」
千葉先生は外国人のように肩を竦めた。
「ええ、こちらはそれを承知でお招きしたんだから大丈夫。気になさらないで。
それから、千葉先生には慣れていただくまで、わたしのアシスタントのパラリーガルがサポートに付くことになってるから」
「そうですか。それはありがたいな」
千葉先生はホッとしたように表情を緩めた。
——そうなのだ。
なにかと頼りにしている向井を、しばらく彼に「貸し出し」することになってしまった。
このこともあって、先週末は休出してまで当面の仕事を片付けたのだ。
今日からは、入社して二、三年目のパラリーガルに仕事を振り分けて行うつもりだが……
——とはいえ、向井抜きで業務が遂行できるのか、甚だ心配だ……
考えれば考えるほど、胃が痛くなる。
コンコンコン…とノックの音がした。
「……光彩先生、おはようございます、向井です。お呼びでしょうか?」