さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
——とは言え、わたしなんかの『ギャンギャン騒い』で『耳につく』声など、ヤツにとっては馬耳東風、どこ吹く風だ。
「はぁ……もう、ワケわかんない」
わたしは身体全体からため息を吐き出した。
「わかったわよ。……そっちへ行けばいいんでしょっ!」
捨てゼリフのようにそう言い放つと、通話を叩っ切ってやった。
「ごめんね。ちょっと、呼び出されちゃった」
わたしは隣に座る向井にそう言うと、ロンシャンの黒のル・プリアージュを肩にかけながらハイスツールから立ち上がった。
「あ、そしたら今日はもうお開き、ということで……」
気を利かせて、向井までもがスツールから腰を浮かすので、
「あぁ、いいのよ」
わたしは彼女を制した。
「今日はほんとに助かったわ。ありがとう。
ここはツケにしておくから、好きなだけ呑んでいってよ。もしボトルが空いたら、新しいの入れといて」
そして、わたしはその遣り取りをそっと聞いていたバーテンダーに目配せすると、そそくさと店を出て行くこととなった。