さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜

——とは言え、わたしなんかの『ギャンギャン騒い』で『耳につく』声など、ヤツにとっては馬耳東風、どこ吹く風だ。

「はぁ……もう、ワケわかんない」

わたしは身体(からだ)全体からため息を吐き出した。

「わかったわよ。……そっちへ行けばいいんでしょっ!」

捨てゼリフのようにそう言い放つと、通話を叩っ切ってやった。


「ごめんね。ちょっと、呼び出されちゃった」

わたしは隣に座る向井にそう言うと、ロンシャンの黒のル・プリアージュを肩にかけながらハイスツールから立ち上がった。

「あ、そしたら今日はもうお開き、ということで……」

気を利かせて、向井までもがスツールから腰を浮かすので、

「あぁ、いいのよ」

わたしは彼女を制した。

「今日はほんとに助かったわ。ありがとう。
ここはツケにしておくから、好きなだけ呑んでいってよ。もしボトルが空いたら、新しいの入れといて」

そして、わたしはその遣り取りをそっと聞いていたバーテンダーに目配せすると、そそくさと(バー)を出て行くこととなった。

< 6 / 188 >

この作品をシェア

pagetop