さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜

「それは……確かに悲惨だね」

——そうでしょう⁉︎

わたしは(すが)るような目で菅野先生を見た。

「光彩先生に過労死でもされたら、この事務所の将来にも関わることだしね」

——いやいやいや、至公()がいるから大丈夫。

父とわたしの母校である(ちなみに茂樹とも)C大法学部を目指す至公(よしゆき)は、幼い頃からかなりの秀才だと言われてきた。
あの子ならきっと、法科大学院を出たあと司法試験に通るはずだ。

そして、ゆくゆくは父の跡を継いで、この進藤綜合法律事務所を背負(しょ)って立つだろう。


「それに、かなりの報酬になるだろうから断るなんて選択肢、うちの所長にはないだろうしね」

菅野先生が片側の口角を上げる。

イケメンはどんな表情でも正義だ。
法務事務職員(パラ)の女の子たちがキャッキャ騒ぐのがわかる。

「おれが引き受けられない代わりに、システム関連についての法務を教えてあげようか。
きみにとっても、スキルアップのいい機会だ。
そもそも、『世界のTOMITA』からきみへの『御指名』だしね」

「ええっ、いいんですかっ⁉︎」

思わず身を乗り出す。
座っていたデスクチェアから立ち上がってしまいそうだ。

「もちろん、いいよ。
……そうだ、『完全貸出』とはいかないけど、斎藤に仕事を振ってくれてもいいよ。
おれの方の分は調整するから」

「ほ、ほんとにっ⁉︎」

——ああっ、菅野先生が「神」に見える。


「でもね、一つだけ条件がある」

——えっ、なになになに?なんでも聞くわっ!

わたしはデスクチェアから立ち上がった。

< 65 / 188 >

この作品をシェア

pagetop