さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
「それは……確かに悲惨だね」
——そうでしょう⁉︎
わたしは縋るような目で菅野先生を見た。
「光彩先生に過労死でもされたら、この事務所の将来にも関わることだしね」
——いやいやいや、至公がいるから大丈夫。
父とわたしの母校である(ちなみに茂樹とも)C大法学部を目指す至公は、幼い頃からかなりの秀才だと言われてきた。
あの子ならきっと、法科大学院を出たあと司法試験に通るはずだ。
そして、ゆくゆくは父の跡を継いで、この進藤綜合法律事務所を背負って立つだろう。
「それに、かなりの報酬になるだろうから断るなんて選択肢、うちの所長にはないだろうしね」
菅野先生が片側の口角を上げる。
イケメンはどんな表情でも正義だ。
法務事務職員の女の子たちがキャッキャ騒ぐのがわかる。
「おれが引き受けられない代わりに、システム関連についての法務を教えてあげようか。
きみにとっても、スキルアップのいい機会だ。
そもそも、『世界のTOMITA』からきみへの『御指名』だしね」
「ええっ、いいんですかっ⁉︎」
思わず身を乗り出す。
座っていたデスクチェアから立ち上がってしまいそうだ。
「もちろん、いいよ。
……そうだ、『完全貸出』とはいかないけど、斎藤に仕事を振ってくれてもいいよ。
おれの方の分は調整するから」
「ほ、ほんとにっ⁉︎」
——ああっ、菅野先生が「神」に見える。
「でもね、一つだけ条件がある」
——えっ、なになになに?なんでも聞くわっ!
わたしはデスクチェアから立ち上がった。