さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
「あれからも、島村先生とは別れたきりなんだろ?」
菅野先生は茂樹の教育係でもあったため、司法修習の頃は三人で呑みに行ったこともある。
その際に、お酒の弱い茂樹が、まんまと菅野先生の「誘導尋問」に乗せられて(まぁ、すでに凄腕弁護士の片鱗を見せていたけれども)わたしと大学時代に付き合っていたことを吐ったのだ。
——あの頃は、茂樹も『おい、島村っ!』って呼ばれてたけどね。
(ちなみに、なんでもソツなくこなすヤツは、わたしと違って菅野先生からほとんど叱られることなかったけれども……)
「それとも……ほかに付き合ってる男がいるとか?」
「まさかっ!」
わたしは思わす声を荒げた。
「このブラック企業並みの激務の中で、彼氏なんてつくれるはずないじゃないですかっ」
いったいどこで「出逢い」があるというのだ。
土曜日に休日出勤してまで働いているというのに……
そんなふうに激務にどっぷり浸かっていたら、花の二十代が瞬く間に過ぎ去っていったというのに……
「それに菅野先生だって、お互いさまじゃないですか。
だから、わたしに偽でもいいから彼女役を引き受けてもらいたいっていうことですよね?」
「えっ、おれは『お試しで』とは言ったけど、『偽の彼女役』を頼んだ覚えはないよ」
——えっ、そうなの?
「でも、ご実家の縁談話を断りたいから『手近』なわたしにIT法務を教えたり斎藤を貸し出したりっていう交換条件を提示してまで、なんとか回避したいんじゃないんですか?」
「身も蓋もない言い方だなぁ……」
菅野先生は天を仰いで嘆息する。
きっと図星だからに違いない。