さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
「さすがに鋭いね」
菅野先生が肩を竦める。
「実は……親父と兄貴から、そろそろ『修業』を終えて手伝ってくれないか、と言われていてね」
——やっぱり「所長」も「昭彦先生」も……
「誠彦先生」には戻ってきてほしいんだ。
横浜の菅野法律事務所で司法修習をしていたときには、同じ姓である彼ら兄弟のことは、下の名前で呼んでいた。
「それから、戻ったついでに身も固めてしまえ、ってうるさくてさ。
もし相手がいないんだったら見合いでもするか、って親父が言うもんだからさ。
おふくろが張り切って知り合いなんかに頼むもんだから、方々から釣書が送られてくるんだ」
——そりゃあ、先生ほどのハイスペックだったら、引く手数多でしょうよ。
「マジでなんとかしないと、知らない間にトントン拍子に話が進んで、ある日突然白いタキシードを着せられて教会に放り込まれそうなんだよなぁ……光彩先生はおれのこと、助けてくれる気ないの?」
心底困ったような口調で話すわりには、片方の口角を上げてにやりと微笑むその顔は、ハッキリ言って、悪人顔以外の何物でもない。
だけど、彼に憧れる法務事務職員の女の子たちだったら、きっと頭の……以下同文。