さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜

——へっ?

思わず、間の抜けた顔になってしまった。

——今この人、わたしのこと『ありさ』って呼んだ?


菅野先生からは、司法修習生時代には「進藤」と名字を呼び捨てされ、ちゃんとした弁護士になってからは「光彩先生」と呼ばれるようになったが……

「光彩」と下の名前を呼び捨てされたことは、未だかつて一度もなかった。


——でも、まぁ……「お試し」で付き合っていることは事実だし。

わたしは気を取り直して言った。

「では……『誠彦さん』とお呼びしたらいいですか?」


「うーん、できれば元カレみたいに、おれも呼び捨てにしてもらいたいけど……」

——茂樹のことを言っているに違いない。

「ま、その辺は追い追いね」

——いやいやいや、『誠彦さん』呼びでいっぱいいっぱいです……

< 81 / 188 >

この作品をシェア

pagetop