さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
——へっ?
思わず、間の抜けた顔になってしまった。
——今この人、わたしのこと『ありさ』って呼んだ?
菅野先生からは、司法修習生時代には「進藤」と名字を呼び捨てされ、ちゃんとした弁護士になってからは「光彩先生」と呼ばれるようになったが……
「光彩」と下の名前を呼び捨てされたことは、未だかつて一度もなかった。
——でも、まぁ……「お試し」で付き合っていることは事実だし。
わたしは気を取り直して言った。
「では……『誠彦さん』とお呼びしたらいいですか?」
「うーん、できれば元カレみたいに、おれも呼び捨てにしてもらいたいけど……」
——茂樹のことを言っているに違いない。
「ま、その辺は追い追いね」
——いやいやいや、『誠彦さん』呼びでいっぱいいっぱいです……