さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
そして、彼のエスコートで店の中へと入っていく。
「いらっしゃいませ、菅野さま」
出てきた女性の店員さんに、深々とお辞儀され、
「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」
と、テーブル席が並ぶホールを抜けて奥の個室へ案内される。
——えっ?
一瞬、店員さんが部屋を間違えたのかと思った。
なぜなら、個室のテーブルにはすでに一組の男女が座っていたからだ。
だが——彼らには見覚えがあった。
「……あぁ、誠彦、待ちかねたぞ。
光彩さん、今日はよく来てくれたね」
「お忙しい中、ほんとよく来てくださったわ。
わたしも光彩さんに会えるのを楽しみにしていたのよ」
「……所長……それに、奥さま……」
わたしが司法修習生の頃にお世話になった法律事務所の所長とその妻であった。
つまり——菅野先生の「ご両親」である。