この男、危険人物につき取扱注意!
そこに座れと春樹に視線で示された先は、上座に座る春樹の斜向かいだった。
(え…ここ?
私よりずいぶん歳上の方々をさしおいて…
こんな上座に座れと…この新参者に?)
「あの…私は新参者ですし…もっと…あちらの端の方が…」
「いいから黙って座れ!」
「…はい」
春樹に言われ座った千夏だったが、よく見るとテーブルの上の食事には一切手はつけられていない様に見えた。
(嘘っ…もしかして…)
「…ひょっとして、私、待ちだったんですか?」
春樹に聞く千夏だったが、応えたのは千夏の向かいに座る坂下だった。
「当組では、食事は基本皆一緒に食べる事になってます。外宅以外は!
それなのにあなたと言う人は…若頭をお待たせして!」
坂下に厳しく怒られてしまった千夏は、小さくなって謝った。
(だって知らなかったもん!
でも食事は家族揃って食べた方が良い。施設でも小野田家もそうだったなぁ。
私が就職して変わっちゃったけど…
あ…私が変えちゃった様なもんか…)
「…それ、良い事ですよね?」と千夏が言うと、またしても坂下から鋭い眼差しと厳しいお叱りが入った。
「なのに、貴女と言う人は!
若より遅く起きて来て…許されない事です‼︎
貴女はまだ…」
「坂下、その辺でやめとけ!
昨夜、俺が無理をさせたからだ。
身体は大丈夫か?」
千夏へのねぎらいの言葉に、組員からも“新婚の間は許してあげないと”と、男達は顔をニヤつかせながら千夏を擁護していた。
(無理させた…?
え…?それって…あれの事…?
え…ウソでしょ…
勿論、チーフとは偽装結婚だからナニも無いけど、だからって皆んなの前でそういう事言う?
いくらナニもなくても恥ずかしいわ!
あぁ顔が熱い…)
千夏は頬を掌で覆った。
(…でも、偽装結婚がバレない様に、皆んなの前では演じないといけないんだっけ?
本来なら昨夜は初夜になるもんね?)
行為は無くとも恥ずかしさを隠せない千夏は頬を赤らめ下を向いていたが、一つ思い出した事があった。
(チーフ、せっかく嘘ついて貰って悪いんですが、坂下さんにはそれ通用しませんよ?
全部盗聴されてますから!
でも、その事はチーフには言いいませんけどね?
坂下さんとの約束なんで!)
「すいません…これからは気をつけます」
そして、春樹が食事に手をつけるのを見て、組員達も食事を始めた。