この男、危険人物につき取扱注意!
組員達が食べ始めるのを待ってから、千夏も箸を手にしたが、なにか足りない気がして周りを見回して箸を置いた。
(あれ…ない?)
「春樹さんお父義様は?」
食事の席に組長が居ない事に気がついた千夏は春樹に尋ねてみたが、やはり応えたのは坂下だった。
「組長は既に済まされました」
「えー、ひとりで食べたんですか?
さっき皆んな一緒にって言ったのに?」
「お身体の調子が悪いので、組長の分は部屋へ運んでるんです!
余計な事話してないで、早く召し上がって下さい!」
(坂下さん姑みたい!)
またしても坂下からの応えに、納得がいかない千夏は、春樹の左袖を掴んだ。
「ねぇ春樹さん、お義父さまの部屋どこですか?」
だが、春樹は何も応えてはくれない。
またしても坂下かと思い、千夏は坂下の方を見たが、坂下も食事をする手を休める様子も無く、千夏はどうしたものかと組員達の顔を見回していたら、遠く離れた下座に座る拡と目が合った。
(今、目が合ったよね?)
「拡君、組長の部屋何処?」
「………」
「拡君!
さっき、“分かんない事は教えてね?”ってお願いしたよね?
もう、約束破るの?」
実際は約束したとは言えず、ただ千夏が教えてと一方的に頼んだだけである。ましてや、握手をしようと手を差し出したのを、拡には受け入れられず逃げられたのだから、約束をしたとは言えるものではない。
寧ろ、拡にとっては言いがかりとも言える。
だが、今の千夏にとって、約束をしたかどうかは関係ない。
ただ、この場に組の長であり家族の長が居ない事がおかしいと思っただけなのだ。
すると、拡の近くに座る兄貴分達は「何もしゃべんじゃねぇぞ!」と拡に小さな声で口止めを始めていた。
(ナニあれ?気分悪いな!)
「拡‼︎」
千夏が大きな声を出すと、拡や拡の周りにいた者達がビックっと体を震わせた。
「私は春樹さんの嫁!
って事は、あんた達の姐さんなんだよね⁉︎
その姐さんの言う事が聞けないのか⁉︎」
啖呵を切る千夏の姿に組員達は唖然とし、拡は箸を置き「…この奥です」震える指で閉められている襖を指差していた。
「もう、初めっから言ってよ!」
千夏は立ち上がり拡の指指した襖へと歩き出した。