この男、危険人物につき取扱注意!

ぐったりとして呼びかけにも応え無い千夏を前に、春樹は怒りで気が狂いそうになっていた。

(医者はまだか⁉︎
俺は何をやってんだ⁉︎
千夏をこんな目に合わせて…)

春樹は部屋の外を気にしながらも、氷水で冷やしたタオルで千夏の顔を拭い額を冷やてした。

(千夏…しっかりしろ…
こんな事でくたばるお前じゃ無いだろ⁉︎
俺に指差して叱れるのはお前だけだ!
死ぬな!目を開けてくれ…)

春樹が祈る想いで千夏の手を握っていると、足音が聞こえ部屋の襖が開くと坂下が医師の藪を連れて部屋に戻って来た。

「藪!おっせぞっ⁉︎」

「うるせぇー!
これでも急いで来たんだっ!
気にいらねぇなら他の医者呼びやがれ!」

「…すまん」

「で、この女誰?」

そう聞く藪に、“お前は知らなくて良い”と春樹は無表情で答えた。

「何処の誰だかわかんねぇ人間(やつ)の治療はしない。
治療費払わず逃げられるのは野良猫だけで十分だ!
俺は、慈善事業やってんじゃねぇからな!
早く救急車呼んでやった方が良いと思うぜ?」

「それが呼べねぇから、(お前)を呼んだんだろがっ⁉︎
心配しなくても治療費なら俺がいくらでも払う!
だから早く治療しろ!」

「もしかして…この(じょうちゃん)…」

「カタギだ。
だから…迷惑はかけたく無い…」

「なぁんだカタギか…
俺はてっきり西の女(きゃくじん)かと思った。
で、どっちの女?」と聞きながらも藪は手を動かしていた。
千夏の腕を触りルート確認するとゴムチーブで縛り、無駄な動きは一切無く一度で決め点滴を流した。

「口数の多い奴はモテねぇぞ?」と言う春樹。

「僕、春君にだけモテたら、他はどうでも良いっていつも言ってんじゃん!」

「キモい事言ってねぇーで、彼女の容態はどうなんだ⁉︎」

「まぁ死にはしないよ。
気がついたら、塩分と水分をよく取らせてやりな!
それから、頭が痛いって言う様なら薬取りに来て?
その時は春君が取りに来てくれると、僕としては嬉しいけど?」

「心配しなくても、俺は行かねえよっ!」

「そう言うと思った。
そんな事より、西の方が騒がしくなって来てるって聞いたけど、良いのかよ?
こんな時に女なんて連れ込んで?」

「ああ、その様だ。総長からも聞いてる。
俺もいま手を回してるところだ。
心配してくれなくても、彼女には誰も手出しさせない。
俺が必ず守る!」

「へぇー本気って事か…
こんな話聞いたら街中の(みんな)が泣くんじゃないか?」

「俺には関係無い!」

「冷たいねぇ…」

藪は、暫く母屋の方に居るから何かあれば呼べと言って、部屋を出て行った。





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