【短編】澱(おり)
どうして圭吾はそんなことまで憶えているのだろう。

止まったはずの涙が再び溢れてきそうになり、私は必死で唇を噛み締めた。


私が圭吾を忘れようとしていた間、圭吾はずっと私との記憶を大切にしてくれていたのだ。


私のこの4年間は、間違っていたのだろうか。

もう何をどうすればいいかもわからない。



「ごめんね、ほんと。いきなりきて、泣いちゃって、迷惑だったよね。やっぱり帰るよ」


きびすを返そうとした瞬間、圭吾は私を腕を掴んだ。



「待てよ。迷惑なんて言ってねぇだろ。急に意味わかんねぇよ」

「だって……」

「俺はどんな状況でも、沙奈に会えて嬉しいと思ってるよ?」

「だったらどうしてあの日、何も言わずに帰ったのよ!」


気付けば大声で、それが言葉になっていた。

言った私の方が驚いた。


圭吾は掴んでいた私の手を離し、少しの沈黙の後で、自虐的に目を伏せた。



「沙奈、終わってからずっと俺の方は向かなかったし、『やっとちゃんと、前に進める』とか言うしさ。冷静に考えてみたら、あれは傷の舐め合いみたいな? そうじゃなきゃ、沙奈は俺とあんなことしないよなって」

「………」

「俺、何やってんだろって思った。恋愛とかわかんないのに今まで適当なことしまくってきてさ、その結果がこれだなって。沙奈のこと、一番大事にしてたはずなのに」


そして圭吾は、息を吐いて言った。



「ちゃんと沙奈のこと好きって言わないままあんなことになって、そりゃあ、今度こそ完全に嫌われたなって思ったら、合わせる顔なかったし」
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