【短編】澱(おり)
「ねぇ、幸せって何?」

「わかんねぇけど、ふたりで笑ってる時間とかじゃね?」


ふたりで、笑ってる時間。


不意に過去の記憶が蘇ってきた。

雲ひとつない青空の下、圭吾と手を繋いで、歌を歌いながら歩くだけで楽しいと思っていた頃のことが。



「そっか。そんなに簡単だったんだ」

「おー。だからもう泣くな。お前はずっと笑っとけ」


なのに、圭吾に抱き寄せられて、私はまた泣いてしまった。

圭吾は「とりあえずおばさんに土下座しなきゃな」と、苦笑いだ。


私は鼻をすすって涙を拭う。



「お母さんに反対されたらどうすんの? お父さんだけじゃなくて、私まで取られたって思うかもよ?」

「したら、最悪、どっかの誰かたちみたいに、駆け落ちでもするか?」

「は? それ、シャレになんないから。全然笑えないし」


でも、圭吾が笑うから、私までバカバカしくなって笑ってしまった。

こんな話で笑う日がくるなんて思わなかったけれど。



「じゃあ、まぁ、まずはお試し期間ってことで」


私の言葉に、圭吾はがばっと体を離して「はぁ?」と顔を歪ませた。



「だって、付き合ってもダメになるかもしれないし? お母さんが許してくれるかわかんないし? 何より、圭吾って女関係がだらしないんでしょ? 信用できないもん」

「いやいや、待て待て。それで俺の何を試すんだよ」

「さぁねぇ」
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