婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 これほど巧みなモチーフは、彫刻の盛んなポルトス王国ですらめったに見かけない。そのうえ果物に刻むなど、常識を逸脱している。だがその思いもしない創造性に、芸術の崇高さを感じた。

(これほどのものを作れる者がいる国だ。考え方を改めてもいいかもしれない)

 芸術性に乏しいとこの国を罵ったことを、ラスカル大臣は後悔する。

 芸術性に乏しいのは、この国そのものではなく王家だ。この国は、守るに値する人材を秘めている。

 ――と、そのときだった。

「きゃああ!」

「わあっ!」

「なんだっ!?」

 雑踏の中、複数の悲鳴が上がった。ラスカル大臣が振り返るや否や、人混みを掻き分けるようにして駆け寄ってきたターバン姿の男が、剣を振りかざす。その剣の柄には、隣国ハイランド王国のシンボルが刻まれていた。

「大臣!」

 従者がラスカル大臣を庇おうとしたが、あえなく男の仲間と思しきターバン姿の男に蹴り倒される。

 ラスカル大臣は胸元から短剣を取り出すと、どうにか襲ってきた男の一太刀を抑えた。

(くっ。ハイランド王国の奇襲か。アッサラーン王国とポルトス王国が締結を結ぶのを危惧して、邪魔しようというのだな)
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