婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 これほどの芸術と、まさか異国の地で出会えるとは思ってもいなかった。

 胸が高鳴り、全身からじわじわと汗が噴き出す。

「模様? ああ、よく見ればそんなもんがありますだね」

(なんと、この芸術の尊さに気づいていないのか……!)

 なんというゆゆしき事態。馬の耳に念仏、猫の手に小判とは、まさにこのことだ。

「よく分かんねえですけど、最果ての塔に住む“もやしの聖女様”からもらったと子供は言っておりましただ」

 言いながら、老人は隣にいる少年の赤毛をわしゃわしゃと撫でた。少年は無表情のまま、むっすりとラスカル大臣を見ている。

「もやしの聖女様?」

 ラスカル大臣が首を捻れば、んだ、と老人は頷いた。

「年中日が差さず作物の育たないわしらの村に、日が差さねえでも育てられる“もやし”の作り方を教えてくださった、尊い聖女様ですだ。その模様も、きっともやしの聖女様がやりなすったにちがいねえ」

 ラスカルは、あらためて精緻な彫刻の彫り込まれたカースイを見つめた。
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