三月のバスで待ってる

「深月、何描くか決めた?」

杏奈が言って、私はまだ決めてない、と答える。

「杏奈はもう決めたの?」

「もちろん、バスケ部の練習風景よ」

と杏奈は胸を張って言う。

「写生って言えば、堂々と鈴村を見れるからね」

なるほど。私は思わず笑った。

「たしかに。うん、いいと思う」

私はくすくす笑いながら言った。

少しずつ楽しみが増えていく。友達、絵、そして、想太の存在。

こんなにうまくいっていていいんだろうか。ふと不安になることもある。

でもーー

「私も探してみるよ」

暗い過去にとらわれるばかりじゃなく、いま目の前にある景色が、少しずつ日常になっていけいいと思った。

「うん。深月の画力なら、きっとすごい大作を描けると思う」

ただの写生大会なのに、そんなことを言う杏奈。

私は「大げさだなあ」と照れながら、褒められるのっていいな、と単純に思った。
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