三月のバスで待ってる
◯
あっという間に1日が終わってしまった。
5時を過ぎると模擬店や出し物の人たちは片付けをはじめ、後は夜の部の後夜祭だけ。
後夜祭の手伝いをすることになったという杏奈と別れて、私の足は自然と、ある場所に向かっていた。
3階の端っこにひっそりとある教室ーー美術室だ。
全校生徒の作品が飾られているので、美術室だけでは収まりきらず、3階にある隣の教室や廊下まで使ってずらりと絵が展示してある。
見渡すかぎり、壁じゅうにずらりと貼られた絵は圧巻で、思わずため息が洩れてしまう。
私が描いた絵は、美術室の後ろの壁に貼られていた。
三角屋根、赤い標識、ところどころ錆びた時刻表、木のベンチ。
私にとって身近な場所。
私の好きな場所。
描いている時は夢中だったけれど、こうして並んでいるところを見ると、なんだか感慨深い。一生懸命描いてよかった、と思う。
「これ、いい絵だね」
ふいに扉のほうから声がして、私はビクッとして振り返った。そこに立っている人の姿を見て、さらに驚く。
「え……え?なんで?」
そこにいたのは、想太だった。しかも、運転手姿のままで。
「先輩に頼んで変わってもらったんだ。知り合いに誘われて、どうしても来たくなって」
「知り合いって……」
誰、そう言おうとした口をつぐんだ。
誰かなんて、訊かなくてもわかる。きっと、中村先生だ。