ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来


「お話中、スミマセン。」

看護師さんに軽く一礼しながら携帯電話を手にした彼。


「ハイ、日詠です・・・・・わかりました。もう少ししたら向かいます。・・・・えっと、血圧チェック10分毎でお願いします。胎児モニターの心拍にも注意して。それじゃ。」


どうやら産科からの緊急コールだったらしい。


「スミマセン、お話の途中で。で、あの話って・・・」

またまた深々と頭を下げながら看護師さんの話の続きを聞こうとしていた彼。



「ま・・・いいわ。産科病棟からコールされたみたいですしね。それじゃ、私はこれで失礼します。」


そんな彼に対してその看護師さんはここぞとばかりに逃げの体勢に入ったようで、彼にそう告げただけでさっさとこの場を後にしてしまった。


わかります、わかります
そうやって逃げたくなる気持ち
部下であるナースさん達の下心とか、言いにくいですよね?


「俺、まだまだ足りないトコ多いんだな・・・・・」


さっきベテラン看護師さんは “そうでない” と否定していたのにも関わらず
それでもなお、自信なさげな彼はベンチに腰掛けたまま頭を抱えながらそう呟いている。


『あっ、お兄ちゃ・・・じゃなくて・・・ナオフミさん、さっき病棟から呼ばれたんじゃ・・・』


本当ならこういう時じゃ、“そんなコトないよ!足りないトコなんてないよ♪”
とか優しく声をかけてあげるべきなんだろうけれども

今の私にはそんな余裕はないの
だって、このまま彼が私に付き添って救急科に入って行ったら
若いナースさん達の熱い眼差しが集中するのは目に見えてる

その状況を
彼自身に認識して欲しくないから

産科のナースさん達の熱視線は仕方ないにしても
これ以上、彼への熱視線数が増えて欲しくないです

だから、私、今はこうやって
アナタを必要としている場所に向かって
勢いよくアナタの背中を押してあげちゃいます


「あっ、でも、お前の怪我の状態、心配だし。祐希もこのままおとなしくしていられるかわからないし。」


ワタシ
正直なところ自分の怪我よりも
アナタのコトが
アナタに集まってしまう熱視線が
気になって仕方ないです

だから、その数がこれ以上増えないうちに
いつもの彼の居場所に早く向かって欲しいんだけど
どうしよう


ポーン!


「高梨伶菜さん、まもなく医師による診察が始まりますので、問診表を持ったまま中待合室でお待ちください。」


天井に設置されているスピーカーから聞こえてきた活舌のいい女性の声。
おそらく先程対応してくれたベテラン看護師さんの声。

グッドタイミングー♪




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