ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来


『ほーら、私も呼ばれたから、早く産科病棟に向かってあげて!これぐらいの怪我、大丈夫だから♪』

自分の名を呼ぶ声がしたスピーカーの方を指差しながら軽い口調で彼に病棟へ行くように促した私。


いつもなら
アナタと離れたくない
少しでもアナタの傍に居たい
という気持ちをグッと押し殺して
“大丈夫” という言葉を口にするんだけど


今日、今のこの状況下では
ココロの底からその言葉を口にしたくなる

だって私は、彼が自分以外の人にじっと見つめられるようなトコロにいて欲しくない
そんな風に思っているズルイ人間になってしまってるから

こんなワタシ、やっぱりズルイですよね?


「・・・わかったよ。また、産科のほうが落ち着いたら顔出すから。なんかあったらすぐに携帯に連絡くれな。じゃ、行くわ、俺。」


いや、わざわざ顔出さなくてもイイです
でも、今度顔出してくれる時はきっと白衣姿だろうから
別に、そうやって拒否しなくてもいいかな?


『うん。頑張ってね♪』


この難局を切り抜けたと感じた私はようやく満面の笑みを浮かべて、そしてできる限り明るくかわいらしい声でそう応対した。


「ああ。」


彼もようやく軽くハミカミながらそう返事をしてくれた。
そしてベビーカーの座っている祐希の頭を優しく撫でてから静かに歩き始めた。
私に背を向けながら。


でもそんな彼の後ろ姿を見つめていても
今日の私は、今までの私みたいに胸が痛んだりはしなかった。

彼が若い看護師さん達の熱視線に晒されずに済むというひとりよがりな想いが
彼が傍にいなくて寂しいという切ない想いに
勝ってしまっているから。

そんな私は
やっぱりどころか、かなりズルイですよね?


『奥さんになるのって、ココロも忙しいな・・・』


自分のことよりもナオフミさんのことを気にしている私だったけれど
彼が立ち去ってから、その状況は180度変わってしまった。

あの人が私の目の前に現れてからは・・・



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