ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
Hiei's eye カルテ7:彼女と彼の接点
【Hiei's eye カルテ7:彼女と彼の接点】
医局で俺に声をかけてきた男は
その前に医局前の廊下にいた伶菜にぶつかった男で
伶菜のことを本気だと思っていることを俺にぶつけてきた男
「交通事故で脊髄損傷疑い?・・・下肢の開放骨折もある?じゃあオペ室、手配して!すぐ行く。」
そして、俺と向き合っている最中に突然鳴ったPHSを耳にしながら
なにかスイッチが入ったように電話応対し、あっという間に医局から立ち去った。
嵐のようにやってきて、嵐のように去っていったその男。
『忙しい男だよな・・・本気って言ってみたり、オペ室手配したり。』
そう溜息はつくものの、
伶菜の存在を介して宣戦布告されたらしい俺は戸惑わずにはいられない
『伶菜にぶつかった後・・・あの男、彼女に何か・・・』
フットワークが良すぎそうな彼に
ついさっきの伶菜と彼のやりとりにも不安を感じずにはいられない
『ダメだ・・・業務に集中しなきゃいけないのに。』
福本さんに以前から指摘されていた通り
伶菜のことが気になるとどうやら医師としての役割が果たせなくなりやすいのを自覚した俺は
『山村さん・・・今、病棟、落ち着いていますか?』
「陣痛が始まった妊婦さんがいますが、初産ですし、子宮口もまだそんなに開いていないみたいなので、休憩行って頂いても大丈夫ですよ。」
『ありがとう。休憩、行ってくる。』
山村さんのありがたい配慮に背中を押され、朝陽が昇り始めた病院屋上ではなく自宅に向かうためにタクシーに乗った。
名古屋の中心街から郊外へ向かう方向に走るタクシー。
逆方向に連なっている道路渋滞を目にしたことで、自宅に向かっていることを改めて認識する。
自宅のすぐ傍でタクシーを降りた俺。
空がすっかり明るくなってきた中、吐く息の白さに寒さを感じて、コートのポケットの中に手を突っ込む。
『あっ、急ぎ過ぎて、着替えてくるの忘れた。』
コートの前ボタンをかけていなかったせいで、ひんやりとした空気が腹の真ん中に突き刺すように感じたことによって、自分が白衣姿のまま病院を飛び出していたことを想い出した。
『そういえば、伶菜が祐希の出産で東京に入院していた頃にも、こういう格好でベビー靴を届けたっけ。』
過去、必死に名古屋から東京まで夜通しクルマを走らせた時にも
白衣姿のまま移動してしまったことにも苦笑いしながら、自宅玄関のインターフォンを押した。