ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
さっき、伊藤先生と話していた時はあんなにも丁寧な口調だったのに
私の前ではやっぱりオレ様な口ぶり
私自身、彼のコトをよく思ってないわけだから
相手が自分と同じ感情を抱いていても当然だよね
別に、もし実際にそうだとしても
私はナオフミさんという人がいるから
今、目の前にいる彼にどう思われていようと構わないけどね
それにこういう時
ナオフミさんならお姫様抱っこ・・まではしないかもしれないけれど
手を引いてくれる優しさはありそうなんだけどな
あっ、でもココ、病院内だから
実は照れ屋さんのナオフミさんでもそんなコトしないかな?
でももっと優しく声かけてくれるハズ///
なのに、目の前のこの医者ったら
なんでこうもオレ様なの?
さっきの
私に気を遣ってくれてるっていう予測、撤回!
やっぱり、あったまにキタ!
『わかりました!』
私はそう吐き捨てて、今にも診察室を出ようとする森村医師よりも先に早足でそこから出てしまった。
「そっちじゃねーよ。こっち。」
私に負けじと早足で追いかけてきて、追い抜いた後も更に歩くスピードを上げた森村医師。
そのなんとも大人気ない態度に更にカチンときた私も歩くスピードを倍速に上げて、前をゆく彼を追い抜いた。
そんな感じで、人が増えてきた外来診察室の前を追いかけ追い抜きっこしながら通過した、白衣姿の男と若干血が滲んだ包帯を左手に巻いている女。
そのやりとりに集中するあまり、周りの視線も左手の痛みも感じていなかったおバカな私。
彼を3度目に追い抜いた時、ようやく
”なんてバカバカしいことをしているんだろう”という想いに駆られた私はつい笑ってしまった。
そして、追い抜き返した森村医師もそんな私をみたせいか、つい吹き出してしまったようだった。
その後も懲りることなく彼と追いかけっこをしていて、手術前の緊張感までもどこかに吹っ飛んだままの私はいつの間にか手術室の総合入口の前にいた。
「ちゃんとついてこれたじゃん!その調子だ。俺、着替えて手洗いしてくるから、ここに入ってからは手術室の看護師さんが案内してくれるから。逃げずにちゃんと手術室5番まで来いよ!」
そう言い放った彼は相変わらずのオレ様口調だったが
その時の彼の顔は、なぜか爽やかに見える笑顔だった。