ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来


看護師の杉野さんにそう頼んだその人の表情は
マスクで顔半分が隠されていて細かい部分までわからなかったが
さっきまでのゴキゲンな様子が嘘だったかのように明らかに不機嫌そうな声をあげていた。

お、お断りって
きっとナオフミさんも忙しい中をかいくぐって
せっかくここへ来てくれようとしているのに

そんな・・・

でも仕方ないよね、ここ手術室だし
人が出入りすると集中力が途切れたりしちゃうかもしれないし

「えー。だってこの前、医学生、5人も突然の手術見学オファーをあっさり受け入れてたじゃないですか・・・」

受話器を押さえる手を反対側の手でさらに強く押さえながら、森村先生に対して容赦なくブーイングを浴びせた看護師さん。



そうなの?
医学生はよくて、ドクターはダメなの?

しかも、ナオフミさんは私の主治医だった人だから
別に隠すことなんてないもないし

別にいいじゃん

『あの、私は、別に日詠先生がここに来られても構わないですが・・』

執刀して貰っている手前もあって、彼に対して少々控えめに自分の意思表示をしたみた私。

「なんで入ってきて欲しいの?日詠さん、産科医師だぜ。」



私の胸元に立てかけてある緑色の小さな仕切りカーテンからひょいと顔を覗かせて
鋭い目付きを私に投げかけながらそうたずねてきた執刀医森村医師。

だってなんでって言われても
傍に居て欲しいんだモン

産科医師の日詠先生じゃなくて、
私のダイスキなナオフミさんに・・

でもこんなところでそんなことを口にできないから

『だから日詠先生は、私の、大切な』

マズイ、ここで“大切な人”なんて言っちゃったら
この医者は何を言い出すかわからない

それに看護師さんも、あんなにもナオフミさんの来室を歓迎してるぐらいだから
彼女の反応も気がかりだし・・・

手術室に入る前の私なら
“スキだから、傍に居て貰いたいんですッ!いいじゃないですか!”なんて
ツッパリながら目の前の人に訴えちゃうんだけど

今は、その人に左手を預けている今は
とりあえず、控えめに
控えめに・・・


『日詠先生、私の主治医だから、だから・・・』


“私の主治医だから”

それは苦し紛れで出てきた理由だったこともあって、私はなんとも弱々しい返事をしていた。


「あのね、キミの主治医はオレなの!もう彼は主治医じゃない!今、ここに産科医師がいてもできることは何もないし、やって欲しいこともねーしな。悪い言葉で言っちゃうと彼は使えない。」

『えっ?!』



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