ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
Hiei's eye カルテ9:関係者以外立ち入り禁止



【Hiei's eye カルテ9:関係者以外立ち入り禁止】




「ナオフミくん、そろそろ処置の時間。」

『・・・・・・』

「ナオフミくん?」

『・・・・・・』

「ナオ・・・日詠先生!!!」

『えっ、・・・あ、はい。』



整形外科医師によって入力された伶菜の電子カルテ内容。
それを見てどんな治療が進むのかわからずパソコンの前で微動だにできなかった俺に福本さんが声をかけた。


「処置!!!」

『あ~ハイ。』


俺の反応の鈍さにイラつきを覚えたらしい福本さんが処置カートを引っ張りながら、俺の肩を叩く。

それに促されるように処置室へ向かう途中、壁掛け時計に目をやった。


午前8時45分
そろそろ伶菜の手術が始まる頃だろうか?

ふたりきりで挙式して過ごした夜から1ヶ月
俺の忙しさは相変わらずで、ゆっくりと新婚生活を送ることができていない
それどころか、婚姻届も区役所に提出できていない状況

そんな中、起きてしまった伶菜の怪我
しかも手術が必要な重症な状態

この1ヶ月の間で、
伶菜には次から次へと色々な事が起こっている

元カレからの結婚詐欺被害
兄妹の関係であった俺との結婚
そして、今

手の怪我ももちろん心配だが
ココロのほうも心配だ



「日詠先生、落ちますよ!!! 床が茶色に染まっちゃうますって。」

『あっ、いけね。』


帝王切開後の患者の抜糸前の消毒をしようと、消毒薬付き綿球を出すように福本さんにお願いをしていたのに、彼女が差し出していた茶色に染まった綿球から消毒薬が滴り落ちようとしていた様子を目の当たりした俺は自分が集中していないことを自覚した。


「も~う。日詠先生ってば、伶菜ちゃんのことでも考えていたんでしょうね。」

「伶菜さんって、彼女のことですか?」

「そうそう、凄く可愛い・・・奥様です。顔だけじゃなくて、人柄も可愛いんですよ~。」

「えっ、日詠先生、彼女、公認なの?」

「それがまだなんですよ~。日詠先生、シャイだから。でも、これから、ですよね、日詠先生。」


 
処置中の患者さんも交じって会話している状態
個人情報を口にしていることが少々困ったものだが、患者さんに心配をかけないように話を振ってくれた福本さんに感謝だな


『・・・これから・・ですね。なのでご内密にお願いします。』

「ひゃ~、いいな~。こんなカッコ良くて、優しい旦那様!!!」

「幸せボケで仕事に影響でないようにしないとね~日詠センセ!!! はい、鑷子」



渡された鑷子(ピンセット)で縫合糸を摘み上げたら、ようやく俺は集中し始めた。
その後、抜糸をし終えた傷痕に保護用テープを貼り、問題なく処置を終えた。




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