ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来



「あれ?日詠先生、今日、オペの予定、入っていらっしゃいましたっけ?緊急ですか?」

『いえ、自分の患者じゃないんですけど、見学をさせて頂こうと思って。』


手術室の更衣室から出た際に、手術室のクラーク(事務職員)に声をかけられた。


「そうですか。そういえばさっき、緊急で整形外科の患者さんが入ってこられて。」

『・・・矢野先生の患者さんですか?』

「いいえ。矢野先生ではなく、森村先生です。」

『森村・・先生?』

「ええ、マイクロ使うからって言ってましたけど。」


緊急の整形外科の患者
マイクロ=マイクロサージャリー=顕微鏡下手術

他に救急搬送された整形外科患者がいなければ
指の腱を切ってしまった患者
・・・おそらく伶菜だ

矢野先生に対診をお願いしていたのに
森村医師・・・か

緊急手術だからなのか?



彼には、以前、自分の後輩医師である久保の誤った処置で発症した新生児の腕神経叢麻痺の治療を請け負ってもらったことがある

その新生児も問題なく経過しており、彼に助けられたと言ってもいいだろう

そんな彼のキャラクターは俺とは正反対な、目立つことが好きそうなタイプで
俺は自ら彼に近寄ろうとは思わない

しかし、いつだったか、まだ妊婦だった伶菜が俺の外来に妊婦検診で受診していた時
森村医師が病院玄関で見かけた彼女のことを好意的に話している姿を見かけた

それからもう随分、時間が経っているから
彼が伶菜のことを覚えていなきゃいいけれど・・・



『電話、貸して下さい。』

「どうぞ。」


彼の整形外科医師としてのスキルは疑ったりはしていない

でもダメだ
伶菜のことを覚えていない保証なんてどこにもない


「ハイ、手術室5番です。」

『手術中、申し訳ありません。産科の日詠です。急で申し訳ありませんが、今、そちらで手術中の高梨伶菜さんの手術を見学させて頂けますか?彼女の担当医だったので。』


彼女の傍に居てやりたい
それ以上の心配事が増えたらしい俺は
担当医だったという過去を引っ張り出してまで
医師の特権を私用する

こんなことも初めてだ



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