ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
「伶菜、手、どうだ?」
緑色の手術着の上に白衣を羽織ったいつものスタイルで、心配気な表情を浮かべながらドアからひょこっと顔を覗かせてしまった彼。
本当なら今すぐにでも
彼に触れたい
でも、
今、ここでそんなコトしたら
森村医師が本当に何を言い出すかわからない
再び聞かれた彼の“伶菜”と呼ぶ声に対して
とっさに彼のほうに向かって、口を閉じるように自分の口に人指し指を立てたまま押し付けた私。
「伶菜?」
そんな私の名前をもう一度口にしながら不思議そうな
顔で私を見つめた彼。
ああ、ナオフミさん
気付いて
アナタの死角には
人がいるの
しかも
森村っていう手ごわい人が
絶対、かわかられる
私はそう口にしたくてもその手ごわい人がすぐ目の前に居るせいでそうできないジレンマから顔を伏せて溜息をつくしかできなかった。
そんな私の様子を察したのか、ナオフミさんは黙って病室内に足を踏み入れた。
そしてすぐさま彼は切れ長の瞳がひとまわり大きくなるぐらい目を見開いていた。
ナオフミさん、森村医師の存在にようやく気がついたんだ
さあ、森村医師
どう出るの?
私をからかう?
それとも
ナオフミさんをからかう、の?
ああ、なんか
なんでこんなコトで頭を抱えなきゃいけないの?
「日詠さん。」
私ではなくナオフミさんに声をかけた森村医師。
「・・・あっ、ハイ?」
森村医師に名前を呼ばれてしまったナオフミさんは
一瞬肩を竦めながら小さな声で返事をした。
ナオフミさんにこの人は何を言うの?
まさか本人に面と向かって
“高梨さんと日詠さんはどういう関係なんですか?”とか聴いちゃうの?
あり得る、この人ならきっと
物怖じなんかしないでズバッと聴いちゃうんだよね
ナオフミさんがもし今ここで
私と彼が“主治医と患者”という関係ではなく、
婚姻届をお互いに記入しているような深い関係
という事実を口にしたら
森村医師ってナオフミさんが発した言葉を
簡単に他言してしまいそうなキャラクターだからな
ナオフミさんは、間違いなくこの病院内で
今まで以上に噂の人物になっちゃうんだろうな
っていうか私の身も危ういっていうか
今度こそ本当にこの病院内を歩けなくなるのかな?
もうこうなったら
森村医師が余計なことを言い出しそうになったら
手術したところが痛くてガマンできないとか言っちゃって
話、逸らしてやるから!
さあ、来い、森村先生~
「先程、高梨さんの手術中に手術室内への入室をお断りして申し訳ありませんでした。」
丁寧な口調でそう言いながら頭を深々と下げた森村医師。