ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来



「あっ、そうそう、コレ、今日、祐希クンが楽しそうに遊んでいたおもちゃと絵本を置いていきます。もしよかったら使って下さいね♪」


しかし、彼女はベビーベッドに載せていたクマのキャラクター付き電動ショベルカーのおもちゃと知育絵本を指差しながらそう言い、ようやく再び笑ってくれた。



『ありがとうございます。助かります!』



「明日も朝からリハビリの予定が入ってるとお伺いしていますので、また祐希クン、小児科でお預かりしますね♪とりあえず、今日、それじゃ、私はこれで失礼します。」


そして彼女はあの癒し系の微笑みを見せながら病室を後にした。




「ママーーーー!ブー!!!!」



私の顔を見て子供なりにも安心したのか、祐希は早速、ベビーベッドに載せられている電動パワーショベルのおもちゃを指差しながらベッドの柵をガタガタと揺らした。

どうやらそのおもちゃで遊びたいらしい。


『わかった、わかった、今、おもちゃ、とってあげるから!』


私はなんとか絡まりかけた点滴チューブをきれいに直してからベッドから起き上がり、自分の右腕に挿入されている点滴の針が引き抜けないように注意しながら祐希がいるベビーベッドまでゆっくりと近づいた。


そして私は手術した左手がむくまないように高く挙げたまま、自分のベッドの上で祐希と一緒に電動ショベルカーのおもちゃを操作しながら遊んだ。


最初は祐希に付き合ってあげようと仕方なく遊び始めた私だったが、精巧に作られたそのおもちゃを操作していくうちに私のほうが熱心に遊んでしまうぐらいだった。

でも、隣にいる祐希も楽しそうに笑っていた。


夕方という主婦にとって最も忙しい時間帯に祐希とゆっくりと遊んだのは久しぶりだった。



そして、夕食を食べた彼を寝かしつけようやく母親という役割を終えた私はホッとしたせいか手術した左手が急に痛み始めた。



“死ぬ気でリハビリやれよ”

“キミのリハビリ成績が悪いと、執刀した俺までがヤブ医者呼ばわりされるからな!”



傷口に針が刺さったかと思うぐらいの痛みと共に再び私の頭を過ぎった主治医になったあの人・・・いや森村先生が放ったその言葉達。


このままじゃ、彼が発した余計な言葉まで思い出してしまうと警戒した私は自分の頭の中からその言葉達をふっ飛ばそうとブンブンと頭を横に振ってみた。



『できれば、あの人じゃなくてナオフミさんの声を想い起こしたかったな・・・きっと今日もナオフミさん、忙しいよね?来てくれるわけ、ないよね・・・』


急に寂しい想いに駆られた私は鞄の中に入れたままだったナオフミさんから貰った小さなハーモニカのキーホルダーとまだ役所に提出していない婚姻届を鞄から取り出して照頭台の上に置きじっと眺めてみた。




怪我してしまってからなかなかナオフミさんと一緒に居られずにすれ違いがちだけど

でもこのハーモニカと婚姻届がちゃんと彼と私の心をちゃんと繋いでくれる





そう思えた私は怪我をしていない右手でそれらを拾い上げ、ついついグッと強く握り込んだ。
その瞬間、なぜか手術した左手がズキンと痛んだ。

それでも私は、右手は怪我をしていないからとそれらを右手に握ったまま眠りについた。






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