ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
ナオフミさんだけでなく、森村医師までもが居なくなったひとりぼっちの病室。
一息つきたくなった私は青い空でも見ようと自分の視線を入り口のドアから窓の外へ移動させた。
『あっ、もう夕方!!! 祐希、伊藤先生に見ていただいているままだった・・どうしよう!!!1週間は入院治療って言われてるし・・・ナオフミさんもきっとこのまま仕事だし、どうしよう・・・誰に預かって貰おうかな・・・』
茜色に染まり始めた空を目にしたことによって、手術直後の患者という立場だけでなく自分が置かれている母親という立場にも戻らなくてはならないことに気がついた私。
慌てて勢いよく起き上がってしまい、右腕に繋がれている化膿予防の抗生剤の点滴のチューブに引っ張られ思うように身動きが取れなくなってしまった。
『この点滴をなんとかしてもらわなきゃ・・・・』
私はとりあえず身動きができるようにして貰えるよう看護師さんに助けを求めることにし、頭上にあったナースコールを押そうとそれに手を伸ばした。
その時、
コンコンッ!
もしかして、ナオフミさん
仕事終わった?
『ハイッ!』
ガチャッ!
「ママーーー♪」
ドアが開いた瞬間、祐希が全力疾走で私が横になっているベッドに近寄ってきた。
「高梨さん、失礼します!」
女性の柔らかい声がした直後に私の視界に飛び込んできたのは人の姿ではなくベビーベッドだった。
「手術、お疲れ様でした。祐希クン、とってもおりこうにしてました!あっ、コレなんですが、祐希クンが使ってもいいそうです。あと、祐希クンの夕食も特別に給食課で用意してくれるそうですよ。」
自分のほうに近づいてきたベビーベッドとともにようやく保育士の伊藤先生がニッコリと優しい笑顔を見せながら姿を現した。
『ありがとうございます!じゃ、祐希もここで泊まってもいいですか?』
「ええ、いいそうですよ!」
“手術直後の患者”と“祐希の母親”というある意味“二足のわらじ”を履かなくてはならずに正直困っていた私。
しかし、伊藤先生のその一言によって私は祐希の夕食の心配をしなくてもよくなったコトそして彼と一緒にここで夜を過ごせるようになったコトを知り胸を撫で下ろした。
『伊藤先生のご配慮、助かります。今夜、祐希を誰に預かって貰おうか困ってたんです。』
「あっ、それは・・・いえ。よかったです。」
感謝の意を込めて会釈した私に伊藤先生は首を小刻みに横に振りながら少々慌て気味にそう言葉を返してくれた。
その瞬間、彼女は笑うことなく、あの癒し系の空気感もなぜか影を潜めた。