ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
『伶菜?入ってもいいか?』
もしかしたら眠ってしまっているかもしれない彼女を起こさないように小さな声かけをした俺。
眠っていたのか、ちょっと慌てたような声で入室してもいい返事をしてくれた伶菜。
申し訳なさを感じながらも、病室のドアを開けると
点滴棒に左腕をぶら提げられた格好でベッドに横になって伶菜が少々困ったような顔で眉を下げながら俺のほうを見た。
やっぱりしんどかったのかと思った瞬間、溜息をついた彼女。
何かを伝えたいのに、伝えられないようなその雰囲気に俺は
すぐさま周囲を見回す
・・・先客がいたらしい
「日詠さん。」
その人物は
医局で俺と背中合わせの位置にあるデスクの主で
俺の弁当に入っていた筑前煮の椎茸を盗み食いするような人物で
「先程、高梨さんの手術中に手術室内への入室をお断りして申し訳ありませんでした。」
怪我した伶菜の初診を担った整形外科医師
矢野先生に対診をお願いしていた
だから矢野先生に執刀して頂ける・・そう思っていた
けれども、
着ているスクラブ(手術着)に所々汗が浸み込んでいる彼
ひと仕事をやりきったような空気を纏った彼
それらを目の当たりにした俺は
「矢野は、昨日から手の外科学会にて東京に滞在中なんです。だから、高梨さんのオペは僕が執刀しました。」
『森村くん、キミが?』
目の前にいる彼・・・森村医師が伶菜の手の怪我の執刀をしたことを覚っていたにも関わらず、本当にそうだったのか確認せずにはいられなかった。
それは伶菜に触れるのは、彼女に対してなんの感情も抱いていないであろう人間であって欲しいという想いがあったから。
矢野先生が学会参加で不在
それが事実であるならば、森村医師が執刀するのは当然
それなのに、どうしても釈然としない俺の態度が漏れ出てしまっていたのか
「高梨さんの元主治医という立場の日詠さんにとっては、、僕が彼女を執刀したのはご不満だったでしょうか?」
彼は俺の想いを見透かしたかのように俺を問い質してきた。