ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来



伶菜、今、どうなってる?


あんなに出血していたんだ
不安だろ?

しかも、rapture=断裂というカルテ記載

おそらく、皮膚を縫合すれば良くなる程度なんかじゃなく
もっと深い組織まで傷ついているのだろう



”整形外科医師・・・中でも本当に細かい手技が必要不可欠とされる手の外科医師” という松浦さんの言葉


糸を引く張力を自由に操る手指の繊細さ
手という複雑なバランス構造から成る器官を調整する能力
顕微鏡下という空間で手指を操る集中力

おそらく努力しても手の外科医師になれない医師もいるということを表している言葉なんだろう


それなのに
森村医師は、身近なスタッフのひとりであると思われる松浦さんにはっきりと信じていると言わしめた


きっと彼なら伶菜を助けてくれる
そう思わなきゃいけないんだろう



手術室のドアをじっと見つめたままそんなことを考えていた俺の私用時間の終わりを告げる電子音。



『はい、日詠です・・・・はい・・・わかりました。エコー、スタンバイしておいて下さい。採血の準備も。』

俺は後ろ髪を引かれながらも、その場を後にするしかなかった。




その後、ドクターコールされた妊婦の処置を終え、他の業務も予定通り終えた午後の休憩時間。

俺は電子カルテで伶菜が手術を終えて、整形外科病棟へ移動したことを知り、カルテ上で部屋番号を確認してから、すぐさまその病室へ足を向けた。



産科医師である俺が整形外科の廊下を移動することが普段は殆どないせいか、同じ構造である病棟が全く異なる場所のように感じる

新生児の泣き声がちらほら聞こえる程度の比較的静かな産科病棟の廊下とは異なり、整形外科病棟は、廊下で高齢の患者が杖歩行練習をしていたり、ギブスを足に巻いた若い患者が車椅子を勢いよく操作しているなど、活気がある


ここの病棟の個室に伶菜は入院しているんだが、以前、産科病棟に入院していた彼女の部屋に足を運んでいた時とは異なる雰囲気に、自分が余所者である気分になってしまう


それに伶菜も手術して間もないから心身ともに疲れているだろう

それでも顔を見る程度ならいいか・・・






コンコンッ!





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