ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
・・元主治医
・・僕が彼女を執刀した
・・不満
彼が口にしたそれらのワードやセンテンスが俺の頭の中に靄をかける
リハビリの松浦さんもあれだけ信頼しているんだ
執刀医としての彼は申し分のない人物なんだろう
だから医療スキルの上での不満はない
でも、彼女を執刀したというセンテンス
そして彼のやりきったという空気
伶菜の主治医という立場を自ら降りた俺が欲しかったそれらを手にしている彼に対し
羨ましいという感情を抱かずにはいられない
それでも、彼女に何もしてやれない俺が
彼女の大切な治療の邪魔をしてはならない
『・・・いや、森村クンも矢野先生が不在で、病棟業務だけでなく外来診察もしなくてはいけないという忙しい中、彼女の手術を行ってくれてありがたいと思ってる。助かったよ・・・』
だから俺は彼女の婚約者として彼に御礼の気持ちを伝えることに徹しよう
・・・そう思った。
それなのに
「今まで高梨さんの主治医は日詠さんだったみたいですけど、今後、俺に彼女の主治医を任せてもらえませんか?・・・・最後まで彼女を、見守りたいんです。」
・・・彼女の主治医
・・・最後まで彼女を見守りたい
怪我をしてただでさえ心細いであろう伶菜の目の前で
自分が過去に手放してしまったそれらを口にした彼からその申し出に大人になりきれていない俺が引き摺り出された。
『最後までって・・・どういうこと?』
「最後までって・・・その言葉どおりですが。」
最後までイコール治療終了までという意味なんてわかっていたのに、それをちゃんと彼の口から具体的に聴かずにはいられない俺は
『リハビリが終わるまで、そこまで彼女を見守りたい・・・そう解釈すればいいんだね?』
自分から”最後”の期限を誘導した。
同じ専門診療科の人間であるなら問題のないその行為だが
整形外科は自分とは異なる診療科
しかもその中でも特に専門性の高い手の外科という診療科の森村医師へのその行為は
彼の治療方針に土足で踏み込むような行為
人によっては、不快に思うどころか嫌悪感を抱いてもおかしくない行為
それなのに
「ご想像にお任せしますよ、日詠先生。」
余裕たっぶりにそう俺に返答をした彼に俺は
もう何も言えなくなった。