ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来


森村医師から“死ぬ気でやれ”と言われているリハビリ


今、目の前にいるこの人達からもそれが伝わってきた
その証拠に誰も笑っていない
私の気のせいかもしれないが悲愴感までも感じられてしまう

しかも病院の地下1階にあるこのリハビリの部屋は窓がないせいか閉塞感までも


せめて薄日が差し込むだけでも部屋の雰囲気が変わりそうなのに
リハビリって初めてやるけれど、私、この雰囲気に負けてしまいそう・・・







パタパタパタッ!




「あー腹減ったなぁ。松浦クン、昨日リハスタッフルームにあった小倉あんバター生クリームどら焼き、まだ残ってる?」


ゴム製のスリッパらしきものが床と激しく擦れる音とともに聞こえてきたなんともとぼけた呟き。


こういう雰囲気の中にそうやって堂々と割って入ってこられるのはあの人しかいない!



「おっ、まーちゃん~来た来た!」


さっきの太い声、厳つい顔のおじさんがニッコリと笑いながら声を上げた。



「おっ、手術、終わったの?今日の昼飯はどら焼き?」


更に、ギプスが腕に巻かれている若いお兄さんまでもリハビリの部屋に入ってきた人に声をかけていた。

どう見ても、この緑色の手術着に裸足でゴムサンダルを履いたこの人はあの人

森村医師だよね?



ということは

・・・この人が、ま、ま、まーちゃん?!




「昼飯はアジフライ定食390円、飯大盛プラス50円!どら焼きは昼飯前の腹ごしらえおやつだよ。おっ、中根のオヤジい!俺を呼んだか?」

「まーちゃん、待っとったよ!今日、親指、でらジンジンするんだけど。」



まーちゃん・・ってかなり笑える

厳つい顔のオジサンが口にする“まーちゃん”はあまりにも自然な呼び方で、ついつい彼らの会話に耳を立ててしまった。



「あっ、ここな?悪い、オヤジ、ちょっと待っとってね。松浦クン、PHS、よろしく!」


そう言いながら、森村医師はPHSを後方へ放り投げ歩き始めた。

宙を舞ったPHSはというと、松浦先生が手慣れた手つきでキャッチした。



ナイスキャッチ♪




でも、あのオジサンの親指、一瞬診ただけで
もう終わり?!

もしかして、小倉あんバター生クリームどら焼きを食べに行っちゃうの?


このオジサン、見た目かなりおっかないから
いきなり逆上したりとかするんじゃない?

いくらオレ様な森村医師でもヤバいよ


その対応は大丈夫なの?





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