ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
Reina's eye ケース11:リハビリルームで見せた意外な表情
【Reina's eye ケース11:リハビリルームで見せた意外な表情】
手術翌日でリハビリ初日。
『おはようございます。今朝、こちらに来るように言われた高梨ですが・・・』
「ハイ、高梨さんですね。少々お待ちください。」
リハビリの受付で女性スタッフにそう声をかけた私はその場で待っている間着用していた病衣の裾を整え直した。
「高梨さーん。こっちです!こちらへどうぞ!」
遠目でみても爽やかな雰囲気を漂わせながら私のもとへ駆け寄ってきた半袖の白衣を着た一人の男性。
「はじめまして、じゃないですよね?リハビリ担当の松浦です!」
『はじめまして!高梨です!』
相手は初めて会ったのではないことを口にしているのについうっかり初めて会ったかのような挨拶をしてしまった私。
「ワハハッ!高梨さんってなかなか面白いですねッ!」
私は慌てて右手で口を塞いだものの、相手にはしっかりと私の誤った挨拶を聞かれていた。
頬が見事に赤く染まってしまった私は、返事すらできずただ俯くしかなかった。
「さあ、こちらへどうぞ!」
『ハイ・・・』
私は顔を上げられないまま小さな声で返事をして松浦先生の後をついて行きリハビリルームに入って行った。
リハビリルーム内はベッドやら大きなテーブルやら沢山の小物物品が押し込まれている棚やらがところ狭しと並べられていた。
更に壁には紙が劣化して角がはがれてきている“五十肩体操”と書かれた図解入りのポスターが、そして天井にはなぜか先端に握り手が取り付けられたロープが滑車にひっかけられた状態でぶら下がっていた。
「松浦先生~まーちゃん、今日は来ないの?ここで待っとれば来る?忙しいのわかっとるけどさ・・・」
私の前をゆく松浦先生にかけられた名古屋弁を操る男の人の太い声。
その声の主は色黒で丸坊主の40代後半ぐらいのちょっぴり怖そうでがっしりとした体格の男の人だった。
その人の右手の親指には白い包帯がかなり分厚く巻かれていた。
「今日はどうですかねえ。あの人、神出鬼没だからな・・ここをおやつ調達所とも思ってるみたいですしね・・・・もしかしたら来るかもしれませんね。」
「そっか、まーちゃん来んとなんか調子でないんだわー、あっ、松浦先生がどうとかそういうことじゃないでね!」
「もちろんわかってますよ、中根さん。僕もその気持ち、よくわかりますから。」
松浦先生は厳つい表情をしたそのオジサンに対しても物怖じすることなく自然な笑顔でそう応対する。
リハビリの部屋の中にはそのおじさんのほかにも、
手のひらからひじにかけて沢山の落書きが書き込まれているギプスを巻いた若いお兄さん
右腕を三角巾で吊った状態で車椅子に乗ったまま左手で箸を持ち小さくカットされたスポンジを摘む練習をしている白髪のお婆さん
必死な形相で車椅子とベッドの乗り移りの練習をしている初老ぐらいの男性など
そこにいる人それぞれが自分のすべきリハビリに集中しているようだった。