ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来



森村医師とミヨお婆さんのやりとりだけでなく、彼らを見つめている周りの人々にも注目せずにはいられなかった私の隣にはいつの間にか松浦先生がいた。


「皆さん、笑ってる・・・・・」


それでも彼らのやりとりから目を離せない私は声をかけてくれた松浦先生の顔を見ることなく抑揚のない口調で返事をしてしまった。

松浦先生の“驚きました?”という問いかけに肯定も否定もすることなく。



「ここにいらっしゃる患者さんは整形外科の患者さんばかりじゃないんです。脳卒中で手足が自由に動かせなくなった患者さん達もいらっしゃるんです。そんな人達も森村先生が来るの首を長くして待ってるんですよ。彼に治療してもらえるわけでもないのにね。」


松浦先生も彼らのほうに顔を向けながらそう呟き、溜息混じりに笑った。


「ミヨ婆ちゃん、お邪魔したね!さてと、中根のオヤジ、親指、診せてくれる?」


そして私たちの視線の先にいた森村医師は軽くミヨお婆さんの背中をポンポンと叩いてから、今度は厳つい顔の中根さんのほうへ再び足を向け、その人の目の前にあった丸椅子に勢いよくまたがってから腰掛けた。


それから彼は中根さんの怪我した右手をそっと掴み、親指に巻かれていた包帯をゆっくりと外してから真剣な眼差しでやや赤黒く腫れ上がった中根さんの親指をじっと見つめた。


「まーちゃん、どうよ?まーちゃんがくっつけてくれた親指、切り落とさんでもええか?俺、それがでら心配で昨日も眠れんかったわ。」


「・・・繋いだ血管に血はちゃんと流れとるで心配せんでええよ。皮膚が赤黒いのもあと3週間ぐらいしたらより赤みが強くなってくるで。でもタバコは止めといてよ。血の巡りが悪くもんで。禁煙できてちょうどええわ。」


心配気な表情で森村医師の顔を覗き込みながら名古屋弁丸出しで彼に訴えかける中根さん。

そんな彼に森村医師はいつものやや乱暴な言葉遣いではなく、彼にひけをとらない名古屋弁で彼を諭すように語り掛けた。





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