ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来



そんな私の隣でゆったりとしたテンポで語りかけてきた松浦先生。

“彼の意外な素顔、知っちゃった”

松浦先生が口にしたその一言はあまりにも・・・・図星だった。



でも、それを肯定するのは、自分自身の中で勝手に築いていた“オレ様、森村”というイメージを自ら崩すことにもなり、そんなことになってはならないという自分でも不可解な想いが頭を過ぎった私。


『そんなコトないですよ。いろいろな境遇の患者さんがいるなあなんて見てただけですよ♪』


私はようやく松浦先生のほうに顔を向け、怪我していない右手を小刻みに扇ぎながら、森村医師のコトなんか全然興味がないようなそぶりを見せた。




「そうですか。じゃ僕の思い過ごしですかね?これはこれは失礼致しました。じゃ、リハビリ始めましょっかッ」


口では謝っているものの口元にうっすらと笑みを浮かべた松浦先生。

そんな彼を見た私は自分の胸の内を見透かされたような気がした。



『ハイ!お願いします♪』

だから、私は彼が話を蒸し返さないように心の中で祈りながら元気よく返事をした。



もしまた今、森村医師の話をふっかけられたりして

自分が今まで抱いてきた森村医師のオレ様イメージが完全に崩れてしまったら、私・・・・

今後彼にどう向き合っていいのかわからない



だって今まで彼の無茶苦茶な言動に対して私も彼に言いたい放題してきたんだもん


そんな彼に意外な素顔があるってことを認めちゃったら、私・・・・

きっと平常心ではいられなくなる

なんとなくそんな気がするの


だからもう触れてはいけない

彼の、森村医師の意外な素顔というキケンな香りが漂うモノには・・・




「じゃ、始めましょっか♪リハビリ、結構ハードですから、覚悟してくださいね!」


元気よく返事をしながらも頭の中では自分がとるべき対応を考えていた私に

松浦先生はニッコリと笑いながらそう声をかけ、私の左手に巻かれていた包帯の一部をスルリスルリと外し始めた。

そしてその後、松浦先生は私を深く追求するような真似はしなかった。



それは彼がオトナだから?

いや、もしかして、彼がこの時点で既に、私の胸の内を完全に見透かしてしまっていたからかもしれない。

もしそうなら、わざわざ私を深く追求する真似なんて一切必要ないのだから。



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