ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
そんな俺だが、やらなきゃいけないことが山程ある
担当妊婦の状態把握
学会のスライド作り
美咲の学会抄録添削
やりたいことも、もちろんある
手術したばかりの伶菜の傍にいてやること
家とは異なる環境で過ごす祐希の世話
1日24時間だけじゃ足りない
毎日そんなことを思いながら過ごしている
そのやりくりを上手にできていない自分にもイラつきを覚える
それでも、やりたいことを諦めるわけにはいかない俺は
『さすがにもう寝てるよな・・・』
消灯時刻が過ぎているところか、もう少しで起床時刻を迎えそうな午前4時。
できるだけ足音を、そして病室のドアを開閉音をたてないように充分に注意を払いながら、眠っている伶菜と祐希の様子を見にいった。
案の定、ふたりとも就寝中。
1つのベッドに2人で寝ているのかと思っていたのに
祐希は小児用のベッドで大の字姿勢ですやすやと眠っている。
一方、伶菜のほうはというと
点滴液がぶらさがっていない点滴棒にスリングの紐をひっかけ、腕を挙げた状態で眠っている。
普通ならこんな姿勢でなかなか眠れないと思うが
手術とかで疲れたのだろう
『初めてのことで大変だろうけれど・・・頑張れよ。』
彼女の瞼(まぶた)にひっかかりそうな前髪をそっと除けてやった。
その瞬間、自分のつま先にコツリと何かがぶつかった感触あり。
『・・・これ・・・・。』
ついこの間、俺が浜松駅のホームで彼女に渡したハーモニカのキーホルダー
そして
一画ずつ丁寧に書く彼女らしい文字で氏名が記入されている、小さく折りたたまれた皺がよっている婚姻届
『なんで、こんなところに?』
それらが床に落ちていた。