ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
Hiei's eye カルテ13:彼女の心の変化と分岐点
【Hiei's eye カルテ13:彼女の心の変化と分岐点 】
カンファレンスが終わった午後12時すぎ。
産科病棟も落ち着いていることを確認した俺は昼食を食べに食堂へ向かった。
食堂入口に置かれている日替わり定食2種類のディスプレイ
食品サンプルではなく、実際に作られた定食が置かれている
今日の日替わり定食はミックスフライ定食、鯖の味噌煮定食
慌ただしい状況が続いている俺はこってりとしたフライを食べたいとは思えず、迷わず鯖の味噌煮定食を選び、食券を購入してから配膳レーンに並んだ。
「あっ、日詠先生!!!先生も私と同じ鯖の味噌煮!!!」
「杉野、何よ~、鯖煮って・・・日詠センセ?!」
レースを進みながら鯖の味噌煮の皿を手に取った瞬間、後ろに並んでいた2人の看護師に声をかけられた。
「日詠先生!!!昨日は手術見学をお断りしてしまって申し訳ありませんでした。」
そのうちのひとりはどうやら昨日の伶菜の手術で介助スタッフとして従事していたらしい看護師。
膳の上に載せた鯖の味噌煮の皿を彼女に指差されたことには少々驚いたが、昨日、伶菜の手術中に彼女に迷惑をかけていたことは確かだった。
『・・・・・・ああ、こちらこそ。大変な時にお願いしてしまってすみませんでした。』
だから膳を持ったままだったが謝った。
「いえいえ、大丈夫です。むしろ、私は役得ってとこです~!!!」
『・・・・・・・』
「杉野~あんた、日詠先生とやりとりあったの?整形外科なのに?」
「あったわよ~・・・整形外科手術室に奇跡が起きたんだってば!」
「胸部外科にも奇跡起こす!!!!日詠先生~私、胸部外科専属手術室ナースの井戸って言います!!!!これを機に・・・・」
食堂のおばさんから差し出された味噌汁を受け取っている間に、味噌汁よりも前に自分の膳に載せられていたもの。
それは、名刺の裏面に書かれたメールアドレスと携帯電話番号。
「ちょっと井戸、大胆だってば。じゃあ、あたしも!!!」
置かれてしまった名刺の上に、更に置かれた杉野さんの名刺。
鯖の味噌煮皿と味噌汁を載せた膳を両手で持っていた俺はその名刺を彼女達に返すことができなかった。