ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来


そう口にしながら太ももをポンと叩き笑ったその女の子。
その隣でゆっくりと頷いた看護師さん。

そんな彼女らを見つめていた私はいたたまれない気持ちになり、その場に居続けることができなかった。



元気でいるうちに誰かに優しくしてあげたい

高校生になるぐらいまでは生きていたい

もっともっと誰かの役に立てると思うから




その小学生ぐらいの女の子が紡いだその言葉達。

自分の命の期限がそう長くはないことを知っているその彼女。

病気と闘っている最中であろうそんな彼女が、
誰かのために努力しよう、誰かのために生きようとしているその姿に私は・・・・胸が引き裂かれそうな感覚を覚えた。



それと同時に

ナオフミさんに甘え寄りかかろうとしていた自分が

リハビリが上手くいくかという不安を抱き弱気になっていた自分が

そして男に捨てられ仕事も解雇されて、楽になりたいという一心で自ら命を絶とうとした自分が

あまりにもちっぽけな存在であるような気がして情けない



あんな幼い彼女がしっかりと自分の未来を見据えているのに
私は、自分の未来をどうしたいんだろう?


彼女が高校生になるのは、多分5、6年後ぐらいだよね?

だったら、私は自分の5、6年後の未来を
どうしたいんだろう・・・?



今の自分はナオフミさんの協力の下で祐希の母親として育児に専念させて貰えている

そしてこれからの私はというと

もうすぐ彼と結婚をして
彼は今までどおり産科医師として、そして私は彼の妻、祐希の母親として過ごすという今までとはさほど変わりがない生活を送るんだろう


それは、私が望んでいた未来であり私が掴みたかった幸せ


けれども、
誰かに優しくしてあげたい、誰かのために役に立ちたいという彼女の言葉
それが今の自分の胸にチクチクと刺さって仕方がないんだ


だって私も、自ら命を絶とうとした後に他人の優しさに触れたことで今、こうして生きていられるんだから


だから私も彼女のように

いつか自分の未来を
誰かの役に立つために
そのために捧げたい


私はそう心の中で唱え、右手を上着のポケットの中に突っ込みハーモニカと婚姻届をギュっと握り締めながら、祐希がいるプレイルームのほうへ再び足を向けた。



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