ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来


さすがに個人情報が記入されている名刺を自分が持っているわけにはいかないと思った俺はおかずをすべて取り終えてから机に膳を置いて、名刺を彼女達に返そうとそれを手にとって動こうとした。


その時・・・



「さすが、ミスター名古屋医大殿堂入りの日詠先生ですね~。おモテになるなる。」


すれ違い様に悪意に満ちた声をかけられた。


「日詠先生の恋人になる人は大変だな~。こんな現場を目撃しちゃったら本当に自分が愛されているのか不安になっちゃったりして・・・」


ここ最近、よく耳にするその声は立ち止まることなくさっさと食堂から出て行ってしまった。


『・・・・・返さなきゃな、これ。』


女性から名刺を受け取ってしまったこととかを
誰になんと言われようがどうでもよかった俺だったのに
その声の主に知られたことはどうでもよく思えなかった。



その声の主は
今、この状況で
おそらく伶菜の一番近くにいる男
俺よりも近くにいるであろう男

彼女の主治医でいられなかった俺とは異なり
彼女の主治医という立場を完璧に担おうとしているその男


俺に初めて本気の脅威という感情を植え付け始めているその男であり
それだけに止まらず
俺に初めて本気の嫉妬という感情までもを植え付け始めている男



『・・・名刺、返す前にいなくなってしまったな・・・参った。』



どうやらその男だけではなく、名刺を膳の上に載せていった看護師達にも置き去りにされてしまったらしい俺は、仕方なく鯖の味噌煮定食を食べた。


そして食べ終わった俺は、膳を返却する前に受け取ったままの名刺をとりあえずスケジュール手帳に挟みこんでから食堂を出た。



< 195 / 542 >

この作品をシェア

pagetop