ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
『あ、ありがとうございます・・・。』



私は上方を向いたままその場にしゃがみ込みとりあえずお礼のみを口にした。




<美咲さんですよね?>

・・・その声かけは間違っている



だって、初対面じゃないもの

医局の前で、ナオフミさんに彼女が謝っていたところに出くわしてしまって、その時に彼女から会釈されたから



じゃあ、

<産科医師、そのまま続けるんですね!>

・・・それも間違っている



だって、

美咲さんが産科に残ること

それを私が耳にしたのは医局の曲がり角の影に隠れた状態だったから
彼女は私にその話題を聞かれていたことなんて知らないはず



じゃあ

じゃあ



あ~
この後、なんて話しかけたらいいんだろう?




売店に買い物に来た、ただの通りすがりの患者に成りすませばいいのかな?

そうだよ・・・
だって、ここには本当にプリン買いに来ただけだもん




それに
美咲さんに、いまだになんて声かけたらいいのかわからないし

ナオフミさんのコト、スキなんですか?
なんてもっと聴けないし




『祐希!先生に拾って下さってありがとうってちゃんと言って、先生からおもちゃを頂こうね!』


私はその姿勢のまま祐希を右腕で手繰り寄せ、彼の背中をポンポンと軽く叩きながらそう促した。

母親らしく、ただの通りすがりの患者のフリをして。



「あっ、じゃあ、コレ・・・」


「・・・マーマ♪」



私に促された祐希は美咲さんに差し出されたおもちゃに突進し両手を広げて受け取った。

そして彼は即座に左側にいた私におもちゃを押し当てながら私を呼んだ。

ちょっぴり照れくさそうな顔をしながら。




『どうもありがとうございました。それじゃ・・・』



結局、祐希が放り投げたおもちゃを拾ってくれたコトに対するお礼を再び伝えるコトで

彼女と接する用事を終わらせるという

・・・かなり手抜きともとられても仕方のない選択をした私。



そして、そんな選択をしてしまったことによって

なんだか地に足がついていないような感覚に陥ってしまった私は

プリンを買うという目的を果たさないまま
祐希とともに売店を後にしようとしたその時だった。





「・・・あの・・・・」






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