ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
彼は歯切れの悪い返事を続けたまま即座に顔を左側に逸らしてしまった。
その横顔はなんともバツが悪そうだったけれど看護師さんが言ってた通り、頬が真っ赤に染まっている。
こんなに顔が真っ赤になっちゃうぐらい照れ屋さんなナオフミさんの性格から言っても
ハッキリと“恋人に余計な心配をかけたくないから食事は遠慮させて欲しい!”なんて言えないよね
医師として従事している時には
パッと見ではクールな雰囲気を漂わせているけれど
患者さんに対しても病院スタッフに対しても紳士的な態度を忘れない
それが彼
だから、ハッキリと断るという行為は
彼にはふさわしくないのかな?
『ズルーイ、教えてよ!』
だから私はハッキリと断ろうとはしなかった彼を責めることなく
真っ赤に染まった頬を見られたくないであろう彼の顔を敢えて覗き込むというイジワルを仕掛けることにした。
きっとそれは彼にとって・・今はされたくないことであろうと踏んだから。
そんなイジワルを仕掛けられた彼はというと
「どう、しよっか、な・・・・」
相変わらず顔を逸らしたまま、繋いでいた手を離し足早に病室の出入り口のほうへ逃げた。
でも、彼は突然出入り口で立ち止まった。
「・・・元気がでるようなゴハン、作ってきてやる。楽しみにしとけな。あと・・・」
彼は私に大きくて広い背中を向けたまま小さな声で呟いた。
でもその声は途中で途切れてしまった。
『・・・あと、何?』
その場に立ち尽くしたまま何も言わずにいた彼の様子が気になった私は
彼に言葉の続きを言うように促した。
「・・・伶菜が退院したらさ、婚姻届、一緒に出しに行こう。休み、なんとか取るから。」
彼は同じ姿勢、同じ声量のまま私にそう語りかけた直後、ゆっくりと振り返り、私の大好きな屈託のない笑顔を見せてくれた。
そんな彼の頬はやっぱり赤く染まっていた。
『・・・・う、うん』
彼の口から飛び出した“私達のシアワセな未来への予定”が耳に滑り込んできた私は嬉しいというポジティブな想いが真っ先に自分の頭を過ぎった。
でも、ナオフミさんが美咲さんやナオフミさんを食事に誘った看護師さんに対して、恋人である自分の存在をハッキリと伝えてくれず
それは彼が照れ屋だから仕方がないとわかっていながらも
・・・少なからず彼に不満を抱いたコト
森村医師に“日詠さんのことを想うのは、もうやめとけ”と言われ、
・・・自分の心が大きく揺さぶられたコト
なぜかそんなネガティブな想いまでも再び自分の頭を過ぎりそれらが複雑に絡み合ってしまったことで嬉しさをより前面に出すような返事を彼にしてあげることができなかった。