ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
白髪混じりのおじさんはそう言いながら車椅子を勢い良くUターンさせ、デイルーム前で様子を伺っていた私とすれ違った。
女医さんと聞いて胸騒ぎがした私は窓の外の様子をじっと見つめていた松葉杖姿の青年の傍に駆け寄った。
『誰か、飛び降り・・しちゃいそうなんですか?』
「ああ、あそこ!!!」
その青年が突然姿を現した私に驚きを隠せなかったものの、即座に右方向に指を差してながら今にも事件が起こりそうな現場を教えてくれた。
彼が指を差したそこには
雲が広がる空の下で
やや強い風に煽られながらも防護柵の外側で立っている
白衣を身に纏った女医さんらしき姿があった。
視力がいいとはいえない私は目を凝らしてその人を見るとその人は明らかに見覚えのある女医さんだった。
「おい、お姉さん、どこへ・・・」
隣にいた松葉杖姿の青年の問いかけに構うことなく
私は無我夢中で走り始めた。
ナオフミさんにとってなくてはならない休息の場所かつ高梨拓志という憧れの人物と空を介して会話をするあの場所
自分の妊娠が日詠医師の手によって確認された時
ちゃんと育てられるか不安で
死んでしまおうと衝動的に向かったあの場所
産科の後輩であった久保医師が自ら命を絶ってしまったあの場所
そして
ナオフミさんが元カレの康大クンと結婚しようとしていた私の手を取り
シアワセなミライへ導き始めてくれたあの場所へ・・・・
ギイイイイイ
相変わらず蝶番が錆びていて耳障りな音を奏でた屋上へ繋がる重い扉を勢いよく押し開けた私。
どんよりとした空の下、強風に煽られながらも前へ進もうとした私の視線の先には
「美咲!そこから動くな!!!!!動くんじゃないぞ!」
白衣を着た、ついさっきも目にした大きくて広い背中の男性が走りながらそう叫んでいた。
その男性は
ついさっきまで一緒にいたナオフミさんだった。