ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
「私、日詠先生が傍にいないと、ダメなんです・・・私、もう、高梨さんに・・・先生の恋人に恨まれてもいい・・・私、日詠先生の」
だから私は
いつの間にかナオフミさんと私の本当の関係=恋人関係を知ってしまった彼女の言葉を
過去の私と同様に死ぬのを諦め、自分の気持ちに正直になることにしたらしい彼女の言葉を
そして、目を閉じている彼に抱きしめられながら、彼の胸に顔を埋めそう呟いた彼女の言葉を
最後まで聞いている余裕がなかった。
その後の彼の反応を、表情を目の当たりにするのも怖かったから。
だってナオフミさんは
自ら命を絶とうとしていた彼女を簡単に突き放すようなことは絶対しない
でも彼のコトを独り占めしたいと思っている私は
そんな彼の姿を受け入れる余裕もない・・
私だけを見ていて欲しい
私だけを抱きしめていて欲しい
だからもうこれ以上、彼を見ていられない
彼に好意を寄せている彼女を抱きしめている姿なんて・・・・見ていられない
私、そんなにも強くないよ・・・
そして私は走り始めた。
一分一秒でも速く、彼らから目を逸らすために。
むくみの悪化予防にて心臓よりも高く上げておかなければいけない左手を下方にぶら下げ思いっきり振りながら。
自分でも左手がジンジンしてむくみが酷くなっているのがわかったけれど
もうそんなことに構ってる余裕も私にはなかった。
行くあてもなく勢いよく走っていた。
でも、
ドン!!!!!
『キャッ!』
屋上からあてもなく走り続け辿り着いたところは医局の裏の抜け道に繋がる道で、その角を曲がろうとした際に私は何かにぶつかった。
その瞬間、メンソール系のようなちょっぴりスパイシーな・・覚えのある独特な香りに包まれた。
鼻の奥のほうを突くようなその香りに。
以前、今と同様に至近距離でその香りを嗅いだ時には
不快感しか抱かなかったのに
それなのに・・・・
「・・・・もうやめとけ、日詠さんのコト想うの・・・やめとけ。」
いつもの”人をおちょくるような”口ぶりとは異なり
至って真剣な口調でそう語りかけられた私は
メンタルが弱りかけてきていたその時の私は
そんな不快感なんて
「・・・もう、日詠さんじゃなくて俺に」
グイッ!!!
「俺にしておけ。」
全くと言っていいほど感じなかったんだ・・・