ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
強風が吹き荒れる中。
美咲がいるのは、転落防止柵の外側。
一歩足を踏み外せば、10階建てのこの建物から間違いなく転落する場所。
そこから転落すれば、もし、助かったとしても生きていくには心身ともにダメージが大きい後遺症を残すだろう
まずが美咲の身の安全の確保が第一優先だ
瞬時に考えた俺はすぐさま彼女のほうへ駆け寄る。
泣きそうで苦しそうで、そして何に怯えているような、そんな顔で俺のほうを見た美咲。
「このままじゃ、私、本当に、助かるはずの患者さんを救えない・・・怖いんです。患者さんと向き合うのが・・・・・・だから、キャッ」
俺にそう訴えかけている最中に、突然、吹き付けた強風のせいで、後ろに煽られる体勢になった彼女。
その腕を俺は間一髪で強く自分のほうに引き寄せた。
そして安全を確保するために、彼女の体を持ち上げて、転落防止柵の外側から内側で移動させた。
余程身の危険を感じたのか、膝から崩れ落ちそうになった彼女。
『お前を、死なせたりはしない。』
彼女が後輩医師久保のように、この屋上から転落して命を落とさないように
産科医師になろうとしていた彼女のこれからの可能性を
再び取り戻すために
そして、未だに自分の心の奥深くに居座ったままでいる
後輩医師だった久保に先輩医師として、生きる道へ導いてやれなかった時
高梨の親父が倒れた時
妊娠判明を告げた時に、ここから飛び降りようとした伶菜を抱き寄せた時
それらが生じた時に自分が何もできないという悔しい感情
そんな想いも二度としたくない
「・・・ヒクッ、、、ヒクッ、、、、ウウウーーー」
その一心で俺は彼女をさらに強く引き寄せ、腕の中に収めた。
医師としての不全感に負けそうになって激しく泣き続ける彼女。
同じ想いを抱き続けている俺は彼女の想いを痛いほど理解できて、
抱きしめずにはいられなかった。