ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来


「来ないで下さい!!!!!私、もういいんです。これでいいんです。」

『・・・・・・』

「私は、弛緩出血を起こしていた妊婦さんを目の前に・・・上野部長が傍で指示して下さっていたにも関わらず、言われたことを何ひとつできなかった・・・・輪状マッサージ1つでさえも・・・日詠先生に支えられてようやく頑張ろうと思えてきてたのに、やっぱり怖くなって・・・・」

『・・・・・・』

「私、ドクターになるまでは、なにもかも自分の思うように事が運んで・・・自分はなんでもできるんだって思っていたのに・・・なのに・・なのに・・・・」




ここ最近、産科医師になろうと意欲を持ち始めていた美咲
その矢先に、彼女は弛緩出血という命に関わるかもしれない疾患を発症した経産婦の治療に当たったが、なにもできなくて自信を無くしてしまった様子


まだ医師として歩み始めて間もないから、しっかりと対応できないことだって当然あるはず
先輩医師に支えられながら、その経験を糧にして学び成長すればいい
しかし、美咲は難題に遭遇した時には努力したり、自分なりに解決方法を見つけて乗り越えてきたタイプの人間だから
おそらく彼女はそういう考え方は持ち得てはいないだろう

医療は患者毎で症状も、価値観も異なるから、いままでの自分のやり方で通用する保障なんてどこにもない
努力イコール良い結果に繋がる保証もどこにもないんだ
けれども、今まで努力をすればなんでも乗り越えてこれた美咲にとって
良い結果がでない現実は受け入れ難く
できない自分も許せなくて、どうしたらいいのかわからないだろう


周囲に支えてもらいながら成長すればいいという考え方に変えろと言っても、人間の価値観はそう簡単には変わらない
だからこそ、周囲の人間が上手にフォローしてやらなきゃいけない


今、俺がそう思っても
今、ここで命がなくなってしまえば
彼女のすべてが終わってしまう


俺が今、すべきことはたった一つ
彼女の命を救うことだ



『美咲!そこから動くな!!!!!動くんじゃないぞ!』



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